2011年1月17日月曜日

「ろくでなし啄木」 藤原と勘太郎のスリリングな応酬

毎日新聞の劇評(濱田元子さん)
「眼の前の出来事が必ずしも真実のすべてとは限らない。人の心もまたしかり。三谷幸喜作・演出の「ろくでなし啄木」は、スピード感あふれる緻密なせりふの応酬で、裏と表、うそと真実をあぶり出し、サスペンスタッチで人間の本質に切り込んでいく。青春のほろ苦い愛と友情の1ページを描き、力も勢いもある藤原竜也と中村勘太郎が鮮烈に役を生きる、好舞台だ。
 東北のひなびた温泉宿にやってきた、女性にも金にもだらしのない、石川一(藤原)すなわち啄木と愛人トミ(吹石一恵)、トミを思いながらも啄木を支えるテツ(勘太郎)。愛憎と金が絡む奇妙な三角関係のなか、啄木は二人にあるたくらみを仕掛ける……。
 旅館で起きたことの真相を、それぞれの立場から解き明かそうとする。緊張と緩和による笑いをからめながら、観客を謎解きするようなスリリングな感覚にひきずり込む。
 三谷のたくらみに、3人の若手俳優が熱く応える。藤原は、「薄幸の天才」のイメージが強い啄木の二面性、やんちゃで奔放な天才の狂気を自在な表情で見せる。勘太郎は、歌舞伎で培った抜群の身体能力、せりふ術を生かしながら、お人よしのテツの古風な人情味を出す。吹石は初舞台とは思えぬ度胸のよさと、愛くるしさを持ち合わせる。障子を使って時空の変化を見せる演出が面白い。」
(東京芸術劇場中ホール)

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