2011年3月6日日曜日

井上ひさしの原点、装い新た こまつ座「日本人のへそ」

朝日新聞 3月4日 夕刊
山口宏子
「笑いと音楽、ドンデン返し、社会批判にサスペンス、忘れちゃいけないお笑いも - 紹介文を案じると、こんな具合か。劇作家井上ひさしの原点「日本人のへそ」を、こまつ座が8日から東京・渋谷のシアターコクーンで上演する。演出は栗山民也。井上作品に初登場の石丸幹二、笹本怜奈らが出演。音楽は小曽根真が新たに作り、演奏もする。
 劇の前半は、吃音(きつおん)症の人たちが治療のために、東北出身のストリッパー、ヘレン天津の半生をミュージカル仕立てで演じる劇中劇。それが後半、二転三転してゆく。1969年にテアトル・エコーが初演。こまつ座は、栗山演出で85,92年に上演した。今回の公演は、井上の生前から企画されていたが、結果として追悼公演の締めくくりになった。
 栗山は「出演者も音楽も変わり、新しい作品として取り組んでいる」という。「井上戯曲の様々な根っこがある特別な作品だと思う。例えば、ストリッパーがお尻を振って字を書く場面。この、肉体をぶつけて何かを表現する迫力は、晩年『組曲虐殺』で描いた小林多喜二の『体全体で書く』という生き方にも通じているように感じます」
 翻訳ミュージカルを中心に活躍している石丸、笹本は「日本語の力強さにほかれる」と口をそろえる。
 会社員、やくざなどを演じる石丸は「朗々と歌い上げるのとは違う、音楽にのせて言葉を伝えることの可能性と、豊かさがある」と言う。
 笹本は波乱の人生をたどるヘレン役。「戯曲の一文字一文字に力がこもっていて、一言も間違えてはいけないと改めて感じます。昭和を生きた女性のたくましさを表現したい」
 芝居に参加しながらピアノ演奏をする小曽根は「演じる人間の生理で曲を書くことができた。ジャズで育ったけれど、体の中には日本の伝統的な音楽もある。そのリズムやメロディーも使い、言葉を伝えることを一番に考えました」と話す。
 辻萬長、たかお鷹、山崎一らが出演。27日まで。山形、大阪、千葉、市川、愛知・知立でも公演。
 小曽根は5月11日にある東京・オーチャードホールでのコンサート「井上ひさしに捧ぐ」もプロデュースする。ゆかりの俳優らが井上作品の劇中歌を歌い、井上の依頼で小曽根が作曲したピアノ協奏曲「もがみ」を演奏する。」

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