2011年3月5日土曜日

新国立劇場 演劇講座 『ゴドーを待ちながら』徹底解剖

2011年3月6日(土)
14:30~16:30
 
講師:岡室美奈子(早稲田大学教授)
 
「ゴドーを待ちながら」の面白さはどこにあるのでしょうか。さまざまな舞台映像をお見せしながら「ゴドー」を多角的に分析し、「難解な不条理劇」というイメージとは異なるリアルな「ゴドー」に迫る。
 
*携帯を使ってカンニングした浪人生が受かっていた学部の教授。話が面白く普通に受かっていれば、この素敵な教授の講義を聴けたはずなのにかわいそうなこととなってしまった。講義を聴けば聴く程4月の公演を是非とも観に行かなければならないと感じた。
 
レジュメ(一部省略)
『ゴドーを待ちながら』徹底解剖
 
0.ようこそペケット・ワールドへ
 
1.<不条理>は「難解」か?
 1.網走刑務所の話   …この刑務所で『ゴドーを待ちながら』の公演を行ったところ凄く受けた
                  (笑いで楽しんでもらえた)
 2.<ペケット・カフェ>について:現代口語による新訳上演
   ・『ロッカバイ』
   ・『あたしじゃないし、』(『わたしじゃない』)
   ・『プレイ』(『芝居』):どこにでもある三角関係の物語。しかし…
   ・『プレイ』映画版:ミンゲラ監督
 3.日常と非日常、下世話な話題と極限状態といった、相反する、または異質なものの結合
 4.リアルな身体感覚
 
2.ベケット基礎知識
 
 問:裕福・ハンサム・頭脳明晰な青年を執筆に駆り立てたものは何だったなか?

 1.イギリス系アイルランド人
         →エリートなのにマイノリティ
             →アイデンティティ・クライシス
 2.パリで活躍。レジスタント運動も。
 3.英仏バイリンガル作家である。
 4.小説、詩、演劇、ラジオ、テレビ、映画、批評など、多彩なメディア・ジャンルの作品がある。
         →メタ的に「なぜそのジャンルか?」を問う。
 
Ⅰ.『ゴドーを待ちながら』の世界
 
1.『ゴドーを待ちながら』概略(ネタバレ注意!)
 
<第1幕>
・ヴラジミールとエストラゴンというふたりの浮浪者が<ゴドーさん>という謎の人物を待っている。
・ゴドーが来たら救われるらしい。
・しかしゴドーが何者で何から救ってくれるのなど、具体的なことは何の説明もなく謎だらけ。
・二人はなかなか現れないゴドーさんを待ちながら、時間潰しのために何気ない会話や行為を時にはだらだらと、時には面白おかしく繰り広げる。
・ポッツオとラッキーという変な二人組が登場してひともんちゃく。
・少年が現れて、<今日は来られないけど明日は必ず来る>というゴドーからの伝言を伝える。
 
<第2幕>
・第1幕とほぼ同じことが繰り返される。同じようなことが2回繰り返されることで、この同じ状況が永遠に繰り返されて、二人は来る日も来る日もこないゴドーを待ち続けるだろうということが暗示される。
 
2.『ゴドー』成立の背景と『ゴドー』の新しさ

 1.第二次世界大戦の終結(1945年)と世界の崩壊
 2.「近代」の決定的崩壊
 3.近代劇への反発
             ↓
 4.<リアル>という感覚の変容
 5.ゴドーの不在=神の死?
 6.ストーリー、プロット、因果律など論理的展開、秩序回復によるカタルシス、起承転結の「結」の排除
 7.世界は壊れているという共通認識の新しい表現
 
3.『ゴドー』の構造と演劇性
 
 1."Nothing happens,twice."(Vivian Mercier)
 2.「再現」ではなく「現前」の演劇(Alain Robbe-Grillet)
 3.無意味な身体の発見
 4.虚実皮膜論?
   <構造>
 5.円環か螺旋か:アイルランドとオカルト
 6.垂直軸と水平軸 (別役実)
 7.不在の神を待ち続ける方法の発明
             ↓
      演劇とは祈りである。

Ⅱ.『ゴドー』と現在

 0.若者が未来への希望を持てない時代
 1.絶対的な価値の不在
 2.コミュニケーションの不在
 3.他者の不在
 <しかし>
 4.希望または祈りとしての「待つ」こと
      ・今年度のゼミ論:ポジティブに読む『ゴドー』
            …成長の物語として『ゴドー』を読む
 
Ⅲ.日本の『ゴドー』
 
 1.1960年代アングラ世代による受容:別役実、佐藤信、唐十郎、鈴木忠志ら
 2.1970年代シラケ世代による受容:つかこうへい
 3.1980年代バブル世代による受容:鴻上尚史
 4.1990年代「静かな劇」世代による受容:宮沢彰夫
 5.ゼロ年代のリアルな『ゴドー』:串田和美、佐藤信らによるリアルなゴドー
 6.2010年代の『ゴドー』は?
 
講師:岡室美奈子(おかむろ・みなこ) 早稲田大学教授
1990年早稲田大学大学院文学研究科博士課程後期課程単位取得退学。同年、早稲田大学常勤講師、97年文学部専任講師、2000年助教授を経て、05年より現職。文学博士(UCD)。現代演劇、テレビ、メディア研究を専門とし、特にサミュエル・ベケット研究では、日本を代表する存在。エディンバラ大学から刊行されているJounal of Beckett Studies顧問をつとめるなど、世界的にも活躍。主な著書に、『知の劇場、演劇の知』(編著)、『ベケット大全』(共編著)、共訳書に『ベケット伝』(上、下)。

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