2011年3月5日土曜日

「自分とは」「日本人とは」問う 南へ「NODA・MAP」

毎日新聞 3月3日 夕刊 高橋豊
「「信じること」「祈り」を巡る野田秀樹作・演出の3部作が完結する。地下鉄サリン事件に至る「ザ・キャラクター」で始まり、「表に出ろいっ!」を挟んで、本作では「自分とは」「日本人とは何か」まで問いかける骨太な舞台となった。
 富士山ならぬ無事山の火山観測所に、南のり平(妻夫木聡)が赴任した。最初に出会ったのが火山に飛び込もうとした女性あまね(蒼井優)で、虚言癖のある彼女が、南らを翻弄する。南はデータから300年ぶりの噴火を予知するが、所長(渡辺いっけい)らは聞こうとしない。
 ふもとのミハル(高田聖子)ら三つ子姉妹が経営する旅館に、天皇・皇后陛下視察前の“お毒見役”と称する男女(銀粉蝶、藤木孝)、VIP(野田)らが泊っていた。本当に天皇は訪れるのか。火山は爆発するのか。300年前の噴火前夜と交錯しながら展開する。
 能舞台を思わせるシンプルな装置(堀尾幸雄)で、火山爆発の混乱を含め、場面転換は数多くのパイプ椅子を移動させる俳優の人力に委ねられる。死者と生者が語り合う夢幻能に似て、時空を超えて対話していても違和感がない。
 笑いの中から、野田は日本史の裏面に切り込んでいく。定住せず山奥や河原を移動して生活したサンカや芸能の人々。さすらう民に北の半島から逃げてきた人も含まれる。あまねの嘘の殻が割れていき、悲痛なもう一つの歴史が明らかになっていく。
 あまねと南は、鏡の両面であり、南は“自分探し”で立ち尽くしてしまう。妻夫木と蒼井が軽やかで明るいだけに、余韻がさらに深い。」
31日まで、東京芸術劇場。

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