2011年3月1日火曜日

演劇 重層的に「日本」問う NODA・MAP「南へ」

朝日新聞:2011年2月28日夕刊
(山口宏子)
「けたたましく愉快な表層。並行して存在するもう一つの世界。それらの根源にある深層。いくつもの層が照らし合い、迷宮にも似た劇世界が現れるのは、野田秀樹作品の特徴の一つだ。
 作・演出の新作「南へ」にも当てはまる。深層にあるのは、これも野田の重要なモチーフである、天皇制をもつ「日本」とは何かという問い。今回は盛り込んだ要素が特に多く、すべてが共鳴し合わないゴツゴツした感触があるが、それをあえて突きつける。
 富士山の隣の「無事山」火山観測所に、あまね(蒼井優)が担ぎ込まれる。自殺しようとしたらしいが、彼女は大うそつきで、観測所員(渡辺いっけい、山崎清介ら)や、この日赴任してきた南のり平(妻夫木聡)を翻弄する。この山を天皇が訪問する話が持ち上がり、ミハル(高田聖子)らが営む旅館に、先触れ(野田、藤木孝、銀粉蝶ら)がやってくる。
 現在の無事山、富士山が噴火した宝永年間の山村、第2次大戦下と時空はめまぐるしく変わり、のり平は何者か、あまねはどこから来たのか、あまねを見つめる少女(黒木華)の正体は……といった謎が折り重なる。
 見えてくるのは、本当にそこにいるのかどうか顔の見えない存在を「信じること」を核にした共同体の姿。のり平とあまねが二つの光源となり、過去から現在から、内と外から、現代日本を照らしす。そこから浮かび上がる事柄は、例えば、火山を「見張る」という使命をなおざりにする観測所の存在はメディア批判かーーといった様々な解釈と思考を導く。
 パイプ椅子を様々に見立て、30人近いアンサンブルが迫力ある動きを見せる演出が冴える。舞台空間は能舞台のよう。死者が現世に語りかける夢幻能のイメージが、劇と響き合う。
 3月31日まで。東京・池袋の東京芸術劇場中ホールにて。

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