2011年3月9日水曜日

「存在の深さ踊りたい」 新国立劇場バレエ団の新鋭・米沢唯

朝日新聞 夕刊 2011年3月9日
吉田純子
「個性の異なる3作品でバレエ表現の多彩さを見せる新国立劇場「ダイナミックダンス」に、同劇場バレエ団の新鋭、米沢唯が登場する。小野絢子、山本隆之、本島美和といった看板ダンサーたちとの共演を前に「ギリギリまで自分を追いつめ、舞台では思い切りはじけたい」と語る。
 上演されるのは、古典的な均整美に満ちたジョージ・バランシン「コンチェルト・バロッコ」、音楽、踊りともにスイング感あふれるデビッド・ビントレー芸術監督「テイク・ファイブ」、ブロードウェー・ミュージカルにも進出した振付家トワイラ・サープによる人気の作品「イン・ジ・アッパールーム」だ。米沢は後の二つに出演する。
 それぞれに異質な作品を並べるプログラムは、アメリカ社会の多層性を映すかのような構成だ。名古屋の高校を卒業後に渡米し、カリフォルニア州サンノゼのバレエ団に入った米沢には、本領発揮の好機ともいえる。
 しかし、ダンサーの個性と自由を何より尊重するアメリカの空気は、当時の米沢に居場所のない感覚を与えていた。「私はむしろ、一挙手一投足に至る表現を研ぎ澄ませる厳しさの中に身を置きたいと思っていた。そんな世界にこそ自分にとっての本当の『自由』があるのだ、と」
 違和感はいつしか壁になっていた。
 「好きなだけじゃダメなのかも」。ダンサーをやめ、日本の大学を受け直そうと思ったが、「最後のチャンス」と受けた新国立劇場のオーディションに合格。変幻自在の豊かな表情がビントレー監督の目にとまり、来シーズン開幕作品「パゴダの王子」では主役に抜擢された。
 新たな出発の背景には、表現の世界へと導いてくれた父、竹内敏晴の死もあった。演劇を通じて現代人の身体のありように向き合い続けた演出家だ。あえてテレビを家に置かず、多感な少女に想像の力を与えた。大きな喪失感とともに「これで悲しい踊りを踊れるようになる」と感じている自分に、改めて舞台人としての矜持(きょうじ)を感じた。
 今月、24歳になる。バレエに限らずコンテンポラリーダンスを含む様々な身体表現に関心がある。とりわけ「H・アール・カオス」の白河直子の集中力みなぎる踊りに憧れている。だが、突き詰めたいのはやはり古典という。「表面的な華やかさは追わず、内に眠っている悲しみを掘り下げられるダンサーになりたい。人間という存在の深い部分を踊っていきたい」
19,20,21,26,27日

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