毎日新聞・東京夕刊より「1位の横顔:第81回日本音楽コンクール」
毎日新聞 2012年11月20日 東京夕刊
先週に引き続き、第81回日本音楽コンクールの各部門1位を紹介します。【梅津時比古】<最終回>
◆トランペット部門 篠崎孝(26)=大阪フィルハーモニー交響楽団団員
◇積み重ねで得た確信
前回の78回で3位。「(再挑戦に)迷い、プレッシャーもありましたが、前回、悔いの残る演奏だったので、今回が最後と思って受けました」
前回のコンクール以前に大阪フィルハーモニー(大フィル)に入団して首席を務めるなど評価は高かった。
「大学(洗足学園)のときから、日本音コン1位を目標にがんばってきました。取れなければトランペットをやめようと思っていたぐらいです」
だが、伝統の大フィルに入ってから、悩みが押し寄せてきた。「どういうふうに吹いたらいいか、どういう音楽をすればいいか分からなくなって。でも、仕事はどんどん来る。前回のコンクールのときは、スランプのさなかでした。入団して5年、試行錯誤しながら少しずつ見えてきたところです。ベートーベンなり、マーラーなり、作曲家の色が分かってきた。今回の本選の課題曲はハイドンとジョリベ。ハイドンは何回やっても本当に難しい。でも吹くたびに発見があって、毎回違うアプローチをして、それが積み重なり、ハイドンはこういうものと確信をもってできました。もちろん、また新たな発見があるでしょうけど。1位になっても、積み重ねていければと思います」
◆作曲部門 平川加恵(26)=東京芸大大学院
◇音の一貫性突き詰めた
3、4歳のころから、おもちゃのピアノの遊び弾きが好きで、3台弾きつぶした。ピアノを習い始めてからは、遊び弾きを先生が楽譜に書いてくれた。作曲の始まりだ。小学校3年のときには作曲の道に進めればと思い始め、東京芸大付属高校に入学。作曲を学んでいたのは学年で一人だったので「自分の作品を、頼めばすぐに音にしてくれる友達がいる最高の環境。その経験が私を作ってくれたと思います」。
ピアノ協奏曲を書き、自らピアノを弾き、友達が全員オーケストラを弾いてくれたこともある。
音コン挑戦は3回目。「今までは第1予選も通らなかった。曲の構成観に悩みを抱えていて、統一性が出せなかった。それを打破しようと、大学院に入ってから、曲の中で音が一貫して開いていくコンセプトで書くことを目指してきました」
今回、渡辺一正指揮東京フィルによって初演された「降る、降る、降る」も、空中に散在する音が一貫して振り続けてくるイメージが鮮烈だ。
「次はここまで追求したことを壊して、自分を裏切る作品でまた一から始めたいと思います」
好きな作曲家、曲は「プロコフィエフ、リゲティ」、それから「小室ファミリー、ビーズも」とちゃめっぽく笑った。
◆クラリネット部門 川上一道(30)=山形交響楽団団員
◇生きたオーケストラ経験
3年に1回のクラリネット部門を3回連続で受けた。75回2位、78回入選、今回1位。「75回の入賞・入選組が大活躍しているので、自分もがんばらなくてはと思って」
昨年、山形交響楽団に首席奏者として入団してから、自分の練習時間がなかなか取れなかった。本選の課題曲は75回と同じモーツァルトの協奏曲イ長調。「オーケストラでの経験が生かせました。オーケストラとの距離感、チェロなど低弦とのつながりがよく分かって、本選で発見したことがいくつもありました」
モーツァルトの曲を吹くべく復元されたバセットクラリネットを用いたせいもあって自然な音楽の流れを出し、響きも深く美しかった。
「低音が(通常管より)出せるので、音の並びに違和感がなくなる。技術も発揮できてアピールできたと思います。でも表現の幅をもっと大きくしなければならないし、反省点だらけ。(共演の)アンサンブル of トウキョウの演奏に助けていただきました」
沖縄県立芸大のときから抱いていた「留学して世界に通用するプレーヤーになりたい」という夢に、一歩近づいた。「ドイツで勉強したい。でも山形交響楽団全員にお祝いしてもらったし、すぐには休めません」
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