2011年2月23日水曜日

日本人の精神の根もとに迫る NODA・MAP「南へ」

気になる演目の劇評を見つけた。
すでに前売り券は完売。観るためには当日券に並ばなければならない。
2月22日(火)日経新聞、夕刊より。
編集委員:内田洋一さん
「いささか難解。けれど日本人の精神の根もとに迫る刺激的な2時間余だ。「信じること」をめぐる野田秀樹作・演出の連作の第3作である。
 富士山ならぬ無事山が猛煙を吐く。爆発はあるのかないのか。天皇ご訪問を触れ回る詐欺師が来て大騒ぎ。舞台となる観測所は過去の噴火の記憶が現れる妄想空間に。
 えたいの知れぬ男(妻夫木聡)は記憶喪失、女(蒼井優)は分身に監視される。ともに幽霊のような存在らしい。鍵をにぎる南のり平という名前の謎を追うと、宝永の噴火を予知したオオカミ少年ノリヘイに通じていた。
 よみがえる死者が悲運を物語る能の様式で構成される。宝永のノリヘイに転じた男は噴火を知らせようと、命がけで天皇の行幸を止める。特攻を思わせる爆音が響くと、男の姿は第2次大戦の兵士に、行幸の列は皇軍の行進に変わる。一瞬の変身は鮮烈だ。
 人間の神格化が危機をみる目を曇らせて、「信じる者」の犠牲を生む。英霊の幻がその残酷さを訴える。北朝鮮を象徴する白頭山から来たという女の謎にも「信じること」を強いる体制の悲劇が投影されていつようだが……。
 天皇制論をちりばめる知的な戯曲(「新潮」3月号)は舞台化が至難。その分、舞台の工夫がめざましい。田中傳左衛門(作調)が監修する太鼓の響き。黒田育世が振り付ける群衆の鋭い動き。能の作り者風の象徴的装置に、火山の線画(堀尾幸男美術)。椅子を鳴らして地震を体感させる演出。ニセ大嘗祭(だいじょうさい)の劇中劇に批評味がきいている。
 妻夫木が舞台俳優として一回り大きくなり、蒼井も伸び盛り。チョウソンハ、黒木華、銀粉蝶が好演。3月31日まで。東京芸術劇場中ホール。

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