2011年6月3日金曜日

2011年度 モーニングコンサート 第4回 金子亜未(オーボエ):森岡聡(ヴァイオリン)

モーニングコンサート 第4回
東京藝術大学奏楽堂
2011年6月2日(木)
指揮:湯浅卓雄

雨ということもあり前週に比べ少し空いていた。前半の金子さんのオーボエ協奏曲は、オーボエの良さが良くわかる曲。金子さんが解説しているように、美しい風景が思い描かれ、春の陽射しのような優しさに溢れた協奏曲。
後半は森岡さんのヴァイオリン協奏曲:ベルクのヴァイオリン協奏曲「ある天使の思い出に」。20世紀の傑作、素晴らしい演奏であった。

前半
◆金子亜未(4年) Ami Kaneko
R.シュトラウス:オーボエ協奏曲 ニ長調 Av.144

千葉県出身。
9歳よりオーボエを始める。
第79回日本音楽コンクールオーボエ部門第3位。
現在、東京藝術大学音楽学部器楽科4年在学中。安宅賞受賞。

R.シュトラウスは1864年ミュンヘンに生まれる。彼は、大作曲家には珍しく、85年の長寿に恵まれた。
しかし、彼が生き抜いた85年間には、二度の世界大戦等、波乱の生涯を送っている。
このオーボエ協奏曲は、第二次世界大戦終戦直後の1945年、スイスのチューリッヒ近郊で作曲された。シュトラウス81歳である。
晩年のシュトラウスは、管楽器(特に木管楽器)を好んで書いており、「ホルン協奏曲第二番」(1942)、「16の管楽器のためのソナチネ」2曲(1943、44~45)、「オーボエ協奏曲」(1945)、「クラリネットとファゴットのためのデュエット=コンチェルティーノ」(1947)と、フルートを除く重要な木管にひととおり協奏曲が書かれた。
これらの作品は、みな円熟味があり、洗練された技巧をもち、R.シュトラウスの「小春日和」作品群として広く知られている。
とくにこのオーボエのための協奏曲は、オーボエ奏者にとって貴重なレパートリーであるといえるだろう。曲全体が、オーボエの特性によって支配され、すべてがそれを生かすために書かれている。
スイスの美しい風景が思い描かれるような、春の陽射しのような優しさに溢れた協奏曲である。

後半
◆森岡聡(4年) Satoshi Morioka
A.ベルク:ヴァイオリン協奏曲「ある天使の思い出に」 (演奏時間約30分)

6才よりヴァイオリンを始める。安宅賞受賞。

アルバン・ベルクはシェーンベルクやウエーベルンとともに新ウイーン楽派の一人であり、12音技法とよばれる作曲法を用いたいわゆる現代音楽の創始者といわれている。しかし、ベルクの本質はロマン主義者であり、彼の作品はそのロマン主義と12音技法が見事に融合した傑作ぞろいである。その中でもこのヴァイオリンコンチェルトは20世紀の音楽遺産といわれるほどの名曲と言われている。この曲には「ある天使の思い出に」という献辞が付されている。この天使とは友人であった作曲家マーラーの未亡人のアルマと彼女が彼女がマーラーの死後再婚した相手との間に生まれた娘マノンのことである。マノンは19歳という若さで世を去り、その死に大変ショックを受けたベルクは当時作曲中だった歌劇「ルル」を中断してマノンへのレクイエムとも言えるこのコンチェルトの作曲に取り掛かった。
曲は2部構成となっている。12音技法を用いながらもこの曲の中にはケルテエン地方の民謡やバッハのコラールが引用されており、特にベルクが引用したコラールは慟哭のコラールでありベルクのマノンの死を悼む気持ちが痛切に現れている。曲の最初にハープに導かれて現れるヴァイオリンのソロは実に美しく、私たちを幻想的なベルク独特の世界に誘う。曲の最後に向かって上へ上へと上昇して行くメロディーはマノンが天に登って行く様を見事に表している。
この曲を書き終えてしばらくしてベルクは急逝しており、彼自身のレクイエムともなってしまった。いずれにしろ、現代音楽や12音技法という言葉から想像される冷たさとは全く無縁の、繊細さと深い哀しみを湛えたベルクのロマンチシズムの結晶である。

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