2011年3月6日日曜日

女性の絆 強く 感動的に 二兎社「シングルマザーズ」

朝日新聞 3月4日 夕刊
扇田昭彦・演劇評論家
「劇作家・永井愛には女性の視点を重視して社会をみつめる作品が多い。彼女が作・演出した今回の新作「シングルマザーズ」も、生活面でも運動面でも奮闘するシングルマザーたちの絆を強い共感と笑いで描く快作だ。永井が主宰する演劇ユニット「二兎社(にとしゃ)」の創立30周年記念公演でもある。
 2002年から07年にかけての東京。古い木造アパートの2階にあるシングルマザーの全国組織の事務所(太田創美術)。代表の高坂橙子(とうこ)をはじめとして、それぞれ元夫との関係や子育てなどに難しい問題を抱え、会社やパートの仕事で生活を支えながら、児童扶養手当の削減を阻止する運動に取り組む女性たちの元気な姿が魅力的だ。
 キャバクラ勤めなどをしながら「ワイルドな子育て」をする若い難波水枝(玄覺(げんかく)悠子)、養育費が途絶え、派遣切りにも遭う大平初音(枝元萌)ら、彼女たちは助け合い、励まし合って、つらい状況を何とか乗り切っていく。重くなりがちな場面を反転させるのは随所に織り込まれる喜劇性だ。
 事務局長の村上直(なお)(沢口靖子)は、元夫による家庭内暴力(DV)の精神的後遺症に苦しむが、やがてそこから懸命に立ち直る。対照的に、事務所に出入りする会社員の小田行男(吉田栄作)は、DV加害者だった過去を反省するものの、結局、変わらぬ本性をあらわにする。女性の立場に理解を示しながら、心は旧態依然という男性に対する作者の批判は厳しく、痛烈だ。その分、女史同士の連帯が強く、感動的に打ち出される。
 沢口、根岸ら女優陣はいずれも持ち味を生かした好演。吉田は内部に不気味なものを抱えた男を抑え気味に演じつつ、男性としての苦悩とつらさもにじませる。」
 27日まで、東京・池袋の東京藝術劇場小ホール1。4月末まで、全国を巡演。

0 件のコメント: